ダイバーシティ&インクルージョンとは

1. ダイバーシティ&インクルージョンとは

ダイバーシティは、組織が均質な状態(モノカルチャー)から、多様性を内包した状態(中村豊『ダイバーシティ&インクルージョンの基本概念・歴史的変遷および意義』(2017))を指します。
企業では、性別や年齢、国籍、文化、価値観など、さまざまな属性を持つ人材の、幅広い採用が積極的に行われるようになっています。 インクルージョン(ダイバーシティ・マネジメント)とは、多様な人材を企業組織に受け入れ、それらすべての人々が多様性を活かしつつ、最大限に自己の能力を発揮できると感じられるよう戦略的に組織変革を行い、企業の成長と個人の幸福に繋げようとするマネジメント手法(中村豊『ダイバーシティ&インクルージョンの基本概念・歴史的変遷および意義』(2017))を指します。
企業では、従業員がお互いを認め合いながら一体化を目指していく、組織のあり方を示します。
さまざまなバックランドを持つ従業員一人ひとりの多様性を受け入れることに加え、組織の一体感を醸成することで成長や変化を推進する取り組みが「ダイバーシティ&インクルージョン」です。 ダイバーシティとインクルージョンをほぼ同じ意味や文脈で用いるケースもありますが、ダイバーシティ(同化・分離)の次ステップとして、インクルージョン(統合)があります。

2. ダイバーシティ&インクルージョンの推進が進む背景

日本企業でダイバーシティという言葉が使われるようになったのは、2000年以降のことです。
労働人口の減少および労働人口構造の変化によって浮上した労働力確保の課題を解決するため、女性や高齢層、障がい者、外国人などの雇用に着目する企業が増えていきました。


  

ダイバーシティ&インクルージョンの背景には労働力の確保だけではなく、プロダクトやプロセスにおけるイノベーション創出があります。
競争環境が変化したり、新たな競合が出現したり、ステークホルダーが多様化する環境において、チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマンが刊行した、まるで右手と左手が上手に使える人のように、『知の探索』と『知の深化』について高い次元でバランスを取る経営(『両利きの経営』東洋経済新報社、2019年)が重視されるようになってきており、企業は持続的に成長し、高いパフォーマンスを発揮するために、イノベーションが起きやすい環境作りに取り組む企業が増えました。

イノベーションは既存の知と新たな知が融合して初めて起こるもので、多様な価値観やライフスタイルを持つ人材の活用が、組織内の発想やアイデアの活性化につながりやすい状況を作りだします。
また、多様性のある人材の採用は、職場環境の改善や、従業員のモチベーション向上にもつながることが期待されています。

3. ダイバーシティ&インクルージョンの種別

ダイバーシティは2種類に分類することができます。
「表層的なダイバーシティ」が性別、年齢、人種など、外から見てわかりやすい多様性を指すのに対して、「深層的なダイバーシティ」は価値観やパーソナリティなど外からでは識別しづらい多様性を指します。

        

A) 表層的なダイバーシティ
■ 性別:2015年9月に「女性活躍推進法」が公布され、企業に対して仕事と家庭を両立できる環境を整えること、採用や昇進、配属における配慮が必要などの基本方針が掲げられました。
家計における購買決定権を女性が握っているケースもあるため、女性の視点を生かした商品やサービス開発がメリットとして挙げられることもあります。
また、女性が活躍できる職場作りは、ワーク・ライフ・バランスへの取り組みにつながったり、家事や育児などにおける男性の役割変化につながったりします。
■ 障がい:従業員数が一定数以上の企業には、障害者雇用促進法により障がい者の法定雇用率が定められていますが、ユニバーサルデザインの商品開発等では、障がい者の視点や意見を期待できます。
■ 年齢:厚生労働省でも高齢者層の活用に向けた「高齢者雇用安定法」を定め、積極的な雇用を推進しています。
高いスキルを有する人材も多く、社会経験が豊富なため、組織作りへの貢献も期待できます。
■ 国籍・人種・民族・出身地:日本人とは異なる文化を持つ外国人は、日本人に無い視点や発想を多く持っています。
グローバル化により外国人の採用も増えていますが、外国人と日本人の知識や視点の融合が期待されます。
■ 性的傾向(LGBTQ):レインボーカラーを用いて理解を深める取り組みが高まっていますが、他の属性への理解に比べると課題が多くあります。
優秀な人材を失うことのないよう、LGBTQと職能はまったく関係がないことを理解し、一人ひとりの個性が尊重される風土醸成が重要です。


深層的なダイバーシティ
■ 宗教の受容:宗教や信仰は、個々のアイデンティティに強く影響します。
一人ひとりの個性を尊重するダイバーシティの取り組みでは、宗教への理解と対応は非常に重要です。
■ 職務経験:蓄積されてきた経験や知識、スキルは一人ひとり異なります。多様な経験を持つ人材が集まることで、均質的な組織にはなかった「知」の力が生まれます。
■ 働き方:時短勤務、在宅勤務などの働き方が注目されてきましたが、従業員の副業・兼業を認める動きも活発化しています。
新型コロナウィルス感染対応で、ますます働き方が多様化していくでしょう。
■ 意見:一人ひとりの意見や物事に対する見方を尊重し、組織の意思決定に生かそうとする考え方です。
人と違う意見を発言しやすい雰囲気、環境作りが重要です。
■ その他、受けてきた教育、コミュニケーションの取り方、組織上の役職や階層も深層的なダイバーシティに含まれます。
         

4. ダイバーシティ&インクルージョンの現状は?

2019年12月に公表された、各国の男女格差を測る「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本は153ヵ国中121位と後退しました。
また、政府が掲げた2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%程度とする目標も、達成不可能ということで、2030年までの可能な限り早期に繰り延べとなりました。多くの企業でダイバーシティ&インクルージョンの取り組みが推進されている一方で、結果を見るとダイバーシティ&インクルージョンの取り組みが上手くいっているようには見えません。


次回は、取り組みが上手くいかない理由を追求していきたいと思います。

執筆者
小河原 尚代
株式会社Dirbato(ディルバート)
コンサルティンググループ パートナー

大学卒業後、大手SIerに入社。その後、日系総合コンサルティングファーム、外資系金融企業に参画。DX推進、プロジェクトマネジメントを得意テーマとし、DX推進の一環で、IT組織変更も多く支援実績を持つ。組織改革やシンプル化・自動化といった業務改革のマネジメント経験を豊富に有する。クロスボーダーな課題解決が求められるグローバルプロジェクトの責任者も歴任。2020年4月1日株式会社Dirbatoに参画。